高齢者住宅における危険箇所とバリア-2
第2章:階段 - 高低差がもたらす深刻なリスク
2.1. 階段における事故の実態と危険性
階段は、住宅内で最も重篤な事故を引き起こしやすい場所の一つです。転落事故は、骨折、頭部外傷、脊髄損傷といった深刻な結果を招き、場合によっては命に関わることもあります 。特に高齢者の場合、一度転落すると回復に時間がかかったり、後遺症が残ったりする可能性が高く、その後の生活の質(QOL)を著しく低下させる原因となります。
2.2. 加齢に伴う身体機能の変化と階段利用の困難さ
高齢者が階段を安全に利用することを困難にする身体機能の変化は多岐にわたります。
まず、筋力低下は、階段の昇降能力に直接影響します。階段を上る際には体重を持ち上げる筋力が必要であり、下る際には体を支えながらゆっくりと重心を移動させる能力が求められます。これらの筋力が衰えると、足が十分に上がらずにつまずいたり、膝が折れて転落したりするリスクが高まります。
次に、視力低下は、段差の認識を困難にします。階段の段差の輪郭がぼやけたり、奥行き感が掴みにくくなったりするため、段鼻を見落として踏み外しやすくなります。また、夜間の暗い階段では、この影響がさらに顕著になります。
バランス感覚の低下も、階段での転落リスクを増大させる重要な要因です。加齢とともに平衡感覚が鈍化するため、わずかな体の傾きやふらつきを感知し、体勢を立て直す能力が低下します。階段の昇降中は常に重心が移動し、不安定な状態にあるため、バランスを崩しやすい状況が続きます。
2.3. 心理的・生活習慣的要因
階段での事故は、身体機能の変化だけでなく、高齢者自身の心理状態や長年の生活習慣も深く関わっています。
高齢者の中には、階段の利用に対して不安感を抱いている方が少なくありません。一度でも階段でヒヤリとした経験があると、その不安感は増大し、階段を避けるようになる「回避行動」に繋がることがあります。しかし、階段を避けることで、かえって下肢の筋力がさらに低下し、より事故のリスクが高まるという悪循環に陥ることもあります。
また、荷物を持って階段を昇降する習慣がある場合、片手が塞がれることで手すりを掴むことができず、バランスを崩しやすくなります。急いでいる時や、時間に追われている時など、つい「急ぎ足」で階段を利用してしまうことも、転落のリスクを高めます。
2.4. 具体的な危険箇所とバリア
階段には、高齢者にとって様々な危険箇所やバリアが存在します。
•手すりの欠如、不適切な手すり: 手すりがない、または片側にしかない、高さが合わない、握りにくいといった不適切な手すりは、十分なサポートを提供できません。
•暗い照明: 階段全体が暗い、特に足元が暗いといった照明不足は、段差の視認性を著しく低下させます。
•踏面の滑りやすさ: フローリングやワックスで滑りやすくなっている踏面は、特に靴下を履いていると滑って転落する危険があります。
•階段の勾配: 勾配が急な階段は、昇降に大きな負担がかかり、転落のリスクが高まります。
2.5. 改善策と予防策
階段の安全性を高めるためには、以下の改善策と予防策が効果的です。
•両側手すりの設置: 階段の両側に、握りやすく連続した手すりを適切な高さ(床から75cm~85cm)に設置します。
•照明の改善: 階段全体を明るく照らし、人感センサー付きの足元灯を設置することで、夜間の移動時でも安全を確保できます。
•踏面の滑り止め加工: 踏面には滑り止めテープを貼る、または滑りにくい素材のシートを敷くなどの対策を講じます。
•階段昇降機の導入検討: 身体機能の低下が著しい場合は、安全かつ快適に階の移動が可能になる階段昇降機の導入も有効な選択肢です。


