地元の国産材【天竜杉】-2

2. スギ・ヒノキの化学的特性:精油成分がもたらす天然の防蟻・防腐効果

注文住宅の長寿命化を考えたとき、日本の住宅にとって最大の脅威となるのが「シロアリ(白蟻)」と「木材腐朽菌(腐れ)」です。現代の一般的な建築基準法や標準的な施工では、これらを防ぐために、土台や柱の地面に近い部分に化学合成された防蟻剤や防腐剤を大量に塗布・注入することが義務付け付けられるか、あるいはそれが常識とされています。しかし、これらの化学薬剤は永久に効果が続くものではありません。多くはわずか5年程度で成分が揮発、または分解して効果を失うため、定期的な再施工(床下に潜っての薬剤再散布)が必要となります。

ここで大きな問題となるのが、シニア世代の健康への影響と、メンテナンスにかかる精神的・経済的負担です。揮発した化学薬剤は、気密性の高い現代住宅の床下から室内の居住空間へと確実に這い上がってきます。嗅覚や神経系が敏感な高齢者にとって、これらの人工的な化学物質は、頭痛、めまい、倦怠感、あるいはシックハウス症候群の原因となり得ます。5年ごとに何十万円もの費用を払って、自宅の床下に毒性のある薬剤を撒き続ける暮らしは、決して「持続可能で安心な終の棲家」とは言えません。

そこで登場するのが、国産のスギやヒノキが太古の昔から自らの中に蓄えてきた、驚異的な天然の化学兵器、すなわち「精油成分(フィトンチッド)」の力です。

木の命が宿る「心材(赤身)」の驚異的な防御力

スギやヒノキの丸太を輪切りにすると、中心に近い部分が濃い茶褐色やピンク色をしており、外側の皮に近い部分が白い色をしていることが分かります。この中心の色の濃い部分を「心材(しんざい)」、通称「赤身(あかみ)」と呼び、外側の白い部分を「辺材(へんざい)」、通称「白太(しらた)」と呼びます。

実は、シロアリ対策や防腐対策において最も重要なのは、この「赤身」をどのように使うかという点にあります。外側の白太は、木が生きている時に水分や養分(デンプンなど)を運ぶ通路だったため、伐採された後も栄養分が豊富に残っており、シロアリにとっては大好物のエサであり、腐朽菌にとっても格好の繁殖床になってしまいます。一方で、中心の赤身は、木が何十年、何百年と成長する過程で、自らの体を支え、病原菌や害虫から身を守るために、細胞の活動を停止させ、そこに特殊な精油成分をぎっしりと充填した「天然の防腐・防虫ブロック」なのです。

ヒノキとスギの固有成分とその効果

ヒノキの赤身には、「α-カジノール(アルファカジノール)」や「ヒノキチオール」(※厳密には日本産のヒノキにはヒノキチオールは微量で、主な防蟻成分はカジノール類やヒノキニンなど)といった、非常に強力な忌避(きひ)作用を持つ成分が含まれています。シロアリはこの成分の匂いを極端に嫌い、ヒノキの赤身がある場所には自ら近づこうとしません。万が一、食べるものが他になくて口にしたとしても、シロアリの消化器官内にいる共生微生物がこの成分によってダメージを受けるため、シロアリはヒノキの赤身を栄養にすることができず、退散するか餓死するしかありません。

同様に、スギの赤身にも「クリプトメジオール」「セドロール」といった固有の精油成分が豊富に含まれています。スギは一見、柔らかく優しい木肌をしていますが、その赤身の防虫・防腐性能はヒノキに勝るとも劣らない強靭さを持っています。特に湿気に対する抵抗力が強く、水に濡れても腐りにくいという性質があるため、昔から日本の家造りにおいて、最も湿気に晒されやすい土台や、雨風に打たれる外壁、屋根の下地などにはスギの赤身が最高級の資材として重宝されてきました。

薬剤に頼らない永続的な安心

これらの天然成分の最大のメリットは、「効果が半永久的に持続する」という点です。化学薬剤のように、数年で揮発して消えてしまうものではありません。何十年、適切な環境であれば何百年が経過しても、木材の細胞内部にしっかりと留まり続け、その効果を発揮し続けます。現に、築数百年を超える日本の伝統的な木造建築(神社仏閣など)が、薬剤など一切使っていないにもかかわらず、シロアリに倒されず現代まで凛として建ち続けているのが、何よりの証明です。

高齢者住宅において、土台や柱といった目に見えなくなる重要な構造骨組みに、地元産のスギ・ヒノキの「赤身」を厳選して使用することは、住む人の健康を脅かすケミカルな物質を家から完全に排除し、同時に「5年ごとのシロアリ点検と薬剤散布に怯え、費用を払い続ける」という老後の経済的・精神的リスクから完全に解放されるための、唯一無二の賢明な選択なのです。