高齢化住宅に必要な3つの視点-2

2章:「湿度と空気質」が守る免疫力と、自然素材による物理的防腐

ビニールクロスと化学建材がもたらす「住まいの乾燥と健康被害」

現代の一般的なハウスメーカーが建てる家の内装は、そのほとんどが「ビニールクロス」の壁紙と、接着剤で固められた「合板(複合フローリング)」の床で構成されています。これらは施工が簡単で、コストが安く、引き渡し時点では非常にきれいに見えるため大量生産に向いています。しかし、住み始めてからの「空気の質」という点においては、多くの問題を抱えています。

プラスチックの一種であるビニールクロスは、一切の湿気を通しません。そのため、冬場に暖房器具を使用すると、室内はまたたく間にカラカラに乾燥してしまいます。室内の相対湿度が40%未満になると、空気中に浮遊するウイルスや細菌の生存率が上がると同時に、人間の喉や鼻の粘膜が乾燥し、繊毛運動による異物の排出機能が低下します。

シニア世代にとって最も警戒すべき病気の一つが「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」です。食べ物や唾液が誤って気管に入り、そこに繁殖した細菌が肺に達することで発症するこの病気は、高齢者の死因の上位を占めています。室内の深刻な乾燥は、喉のバリア機能を破壊し、誤嚥性肺炎やインフルエンザなどの感染症にかかるリスクを跳ね上げるのです。

「壁が呼吸する」環境が、結露とカビ・ダニを防ぐ

一方で、ビニールクロスで覆われた部屋は、梅雨時期や冬場の加湿時には湿気が逃げ場を失い、窓ガラスや家具の裏側、さらには壁の内部で「結露」を引き起こします。結露はカビの温床となり、そのカビを餌とするダニが大量発生します。

目に見えないカビの胞子やダニの死骸、糞(ハウスダスト)が空気中に充満すると、それを吸い込んだシニア世代の呼吸器を激しく刺激します。高齢になってから喘息(老人性喘息)を発症したり、慢性的な咳やアレルギー症状に悩まされたりする人が多いのは、この汚れた室内空気が原因であるケースが多々あります。

これからの高齢化住宅に必要なのは、機械的な加湿器や除湿器に頼る生活ではなく、建物自体に湿度をコントロールさせる工夫です。古来日本の家屋に使われてきた「漆喰(しっくい)」や「珪藻土(けいそうど)」、そして「無垢の木材」には、周囲の湿度が高いときには湿気を吸い込み、乾燥しているときには蓄えた湿気をおだやかに放出する「調湿作用(呼吸効果)」があります。

これらの自然素材をふんだんに使った空間では、特別な機械を使わなくても、年間を通じて人間にとって最も快適でウイルスが不活性化する「湿度50%〜60%」の環境が自然に維持されやすくなります。澄んだきれいな空気を胸いっぱいに吸い込める環境こそが、シニア世代の低下しがちな免疫力を根底から支えるのです。

化学薬品に頼らない、物理的な防腐・防蟻(シロアリ)対策

住環境の「空気の質」を考える上で、もう一つ見落としてはならないのが、床下や構造材に施される「防腐・防蟻(シロアリ)処理」の薬剤です。

現在の日本の一般的な建築基準法や住宅ローン(フラット35)の基準では、地面から1メートルの高さの構造材に、シロアリや腐朽を防ぐための薬剤を散布・塗布することが半ば義務付けられています。しかし、ここで使われる薬剤の多くは、数年で効果が揮発してしまう化学物質です。揮発した成分は、床下の隙間やコンセントの穴などを通じて、じわじわと室内の居住空間へと上昇してきます。

ただでさえ自宅で過ごす時間が長くなるシニア世代や、免疫力が低下している方が、これらの化学物質を毎日微量ずつ吸い込み続けたらどうなるでしょうか。原因不明の体調不良、頭痛、倦怠感、あるいは化学物質過敏症などを引き起こすリスクは否定できません。「シロアリから家を守るために、住む人の健康を犠牲にする」というのは、完全に本末転倒です。

本来の家づくりは、こうした強い化学薬品を定期的に撒く構造にするべきではありません。重要なのは、以下の3つのような「物理的なアプローチ」によって、シロアリや腐敗がそもそも発生できない環境を作ることです。

  • 基礎の断熱と徹底した床下の風通し(乾燥状態の維持)
  • シロアリが物理的に侵入できないステンレスメッシュなどの防蟻シートの施工
  • 天竜杉などの、もともと油分が多くシロアリや腐朽に強い地元の良質な心材(赤身)を構造材に使用する

薬品による一時のごまかしではなく、木材の性質を見極め、構造の工夫によって建物の長寿命化と住む人の健康を両立させる。これこそが、真に持続可能で安全な高齢化住宅のあり方です。